
クエン酸と聞いて、生物選択の血が騒いだのでちょっと書く。
人間に限らず生物が生きるにはエネルギー(カロリー)がいる。
そのエネルギー源は当然食べ物。 食べたものは消化・分解され、
ブドウ糖や脂肪になって体に蓄えられるのは家庭科でも習ったね。
そのブドウ糖や脂肪を生き物が動いたり、生体器官を維持するのに
使うのだが、ブドウ糖や脂肪はそのままでは使えない。
ATP(アデノシン三リン酸)という、使いやすい形にする必要がある。
ATPは、水と反応してADP(アデノシン二リン酸)と1個のリン酸に分解され、
この分解される時にエネルギー(カロリー)が発生し、そのエネルギーが
運動や発熱や細胞の成長などに使われるという仕組み。
だからATPは「生物のエネルギー通貨」と言われる。
不思議だねー、生き物の体って。

上の図の水色部分にあるように、ATPを作る場面は3回ある。
(後に出てくる図と若干異なるが、上図は全体を表記した簡素版)
その①
まずは、ブドウ糖を分解してピルビン酸にする。
この時にもちょっとだけATPができる。 1個のブドウ糖から2個だけ。
ここまでは酸素を使わないので、無酸素呼吸という。
その②
酸素があって、激しい運動を体が要求してなければ、
ピルビン酸はクエン酸回路に送られる。
クエン酸回路は、ATPを効率よく作る仕組み。
ピルビン酸は活性酢酸になり、オキサロ酸とくっついてクエン酸になる。
クエン酸→ケトグルタル酸→コハク酸→オキサロ酸と変化して、
そのオキサロ酸が、ピルビン酸から活性酢酸になって送られてきたヤツと
くっついて、またクエン酸→ケトグルタル酸→コハク酸→オキサロ酸と繰り返す。
このグルグルとモーターのように繰り返す仕組みがクエン酸回路。
クエン酸回路の中では水を使ってATPを作るが、やっぱり1回転で2個だけ。
その③
クエン酸回路が回っている時には、水素がたくさん生まれる。
その水素を使って、最終的に電子伝達系という場所で、
それまでの17倍の34個のATPが作られる。 ここで酸素が必要になる。
まだややこしいから簡単にまとめると、
①は無酸素でブドウ糖をピルビン酸にするとATPが2個できる。
②はクエン酸回路を回して、水から水素を取り出す。同時にATPが2個できる。
③はその水素を酸素と結びつけて水に戻す時に、ATPが34個できる。
まー、うまいことできてるもんだ。 ロータリーエンジンみたい。
これらは、細胞の中のミトコンドリアの中で動いている仕組みで、
普通に息を吸ったり吐いたりする時でも、クエン酸回路は働いている。
逆に、酸素がないとATPがたくさん作れないから、呼吸する必要がある。
ジョギングやエアロビなんかは、①→②→③の有酸素運動で、
糖質や脂肪を燃焼し、運動エネルギーのもととなるATPを生成し続けるので、
長時間運動することができる。 ただし、急に激しく動くと①のみになる。
①の無酸素運動は酸素を使わないのでATP生成量が少なく、
運動時間は全力だと30秒程度が限界だと言われている。
注意としては無酸素運動は息を止めているという意味ではない。
息もするし、酸素も吸ってるけど、激しい運動をする場合は
酸素摂取量よりも、酸素消費量の方が上回るので、
細胞が酸欠状態になると考えられる。
だから、酸素を使わない①の方法でATPを作るってこと。
で、その方法だと、ピルビン酸が乳酸になってしまうのだ。

さあ、この乳酸が問題なわけだ。
スポーツをやる人が、練習によって心肺機能を高めるのは、
酸素摂取量の最大値を増やすことで無酸素運動状態になるのを抑え、
乳酸ができにくい体にしているというわけだ。
なぜなら乳酸は疲労物質。 体内に蓄積されれば運動能力が低下する。
だから、この乳酸ができにくくなれば運動時の疲労を軽減できるはず。
そう考えて、「903」にはクエン酸が入っているというわけ。
つまり、最初からクエン酸を飲んで取り入れておけば、
酸素が足りなくてもクエン酸回路が働いて、乳酸を作る①を
抑えることにつながるんじゃないか、という発想だ。
実際、クエン酸はサプリメントの成分でも多用されているが、
効果のほどは実はわからない。
それはなぜかというと…
乳酸は疲労物質。
乳酸が筋肉に蓄積された状態が筋肉痛。
長い間そう言われてきた。
んが、
実は、筋肉痛の原因どころか、乳酸は疲労物質ではない
というのが最近の見解らしい。
乳酸ではなく、乳酸カルシウムが疲労の原因だと言われている。
(乳酸と乳酸カルシウムは全くの別物)
となると、今まで乳酸を目の敵にしてきたのは…??
あれ? 「対乳酸」をコンセプトとした「903」の立場は…??
キリンの広報は、こう続けている。
「味覚は爽やかな柑橘系の味をベースに、クエン酸の特徴的な酸味により、
キレが良く、ゴクゴクとおいしく飲める、スポーツ時に最適な味覚に仕上げています。
また、新たな試みとして、キリンビバレッジ、アディダス ジャパン、
早稲田大学トップパフォーマンス研究所が協力し、学生アスリートを対象に
フィールド調査(グランドでの練習中や家庭内飲用など現実に即した飲用調査)を実施。
止渇性、効果実感などを現実に即した形で検証し、商品の完成度を高めています。」
すごい気合いの入りようだ。
だが、実際に飲んでみても、既存のスポーツドリンクと大差ない。
確かに酸味があるといえばあるよーな気もしたが、
残念ながら、気合いに見合うだけの明確な違いを感じられない。
「広告は、TV、屋外ボード、車内広告、雑誌など、発売と同時に多様な展開を行い、
ブランド認知を一気に獲得します。
さらに、サッカー日本代表オフィシャルドリンクとして代表をサポートするのを始め、
JFA主催のスポーツイベントへの商品協賛など、スポーツシーンでの露出をはかり、
本格スポーツドリンクとしてのポジションを確立します。 」
「903」が雑誌で話題になったのは、パッケージデザインだけでなく、
恐らくキリンが社運を懸けたプロジェクトだったからではなかろうか。
サプリメントブームの中、なりもの入りで登場した「903」。
ブランド認知を獲得するどころか、数年を経ずして絶版となった。
サプリドリンクの時流に乗って有名デザイナーを起用したものの、
消費者が他の商品と明確な味や機能の違いを実感できず、
陳列ケースから姿を消すことになった。
そもそも、クエン酸はレモンなどの柑橘類から摂取できるし、
日本の食卓に必ずある梅干しにも多量に含まれている。
それをドリンクにしていくら効果を訴えても、クエン酸の存在すら
知らないであろう一般消費者の心には、あまり届かなかったようだ。
しかし、「アミノ酸が入ってます」を売りにしたものばかりが繁殖していた
時代において、乳酸に着目したサントリーの精神は賞賛に値する。
そして、この奇抜なデザインもまた賞賛に値する。
秀逸なデザインをたくさん輩出しているサントリーには、
今後もぜひとも新しいデザインにチャレンジして欲しいものである。
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人間に限らず生物が生きるにはエネルギー(カロリー)がいる。
そのエネルギー源は当然食べ物。 食べたものは消化・分解され、
ブドウ糖や脂肪になって体に蓄えられるのは家庭科でも習ったね。
そのブドウ糖や脂肪を生き物が動いたり、生体器官を維持するのに
使うのだが、ブドウ糖や脂肪はそのままでは使えない。
ATP(アデノシン三リン酸)という、使いやすい形にする必要がある。
ATPは、水と反応してADP(アデノシン二リン酸)と1個のリン酸に分解され、
この分解される時にエネルギー(カロリー)が発生し、そのエネルギーが
運動や発熱や細胞の成長などに使われるという仕組み。
だからATPは「生物のエネルギー通貨」と言われる。
不思議だねー、生き物の体って。

上の図の水色部分にあるように、ATPを作る場面は3回ある。
(後に出てくる図と若干異なるが、上図は全体を表記した簡素版)
その①
まずは、ブドウ糖を分解してピルビン酸にする。
この時にもちょっとだけATPができる。 1個のブドウ糖から2個だけ。
ここまでは酸素を使わないので、無酸素呼吸という。
その②
酸素があって、激しい運動を体が要求してなければ、
ピルビン酸はクエン酸回路に送られる。
クエン酸回路は、ATPを効率よく作る仕組み。
ピルビン酸は活性酢酸になり、オキサロ酸とくっついてクエン酸になる。
クエン酸→ケトグルタル酸→コハク酸→オキサロ酸と変化して、
そのオキサロ酸が、ピルビン酸から活性酢酸になって送られてきたヤツと
くっついて、またクエン酸→ケトグルタル酸→コハク酸→オキサロ酸と繰り返す。
このグルグルとモーターのように繰り返す仕組みがクエン酸回路。
クエン酸回路の中では水を使ってATPを作るが、やっぱり1回転で2個だけ。
その③
クエン酸回路が回っている時には、水素がたくさん生まれる。
その水素を使って、最終的に電子伝達系という場所で、
それまでの17倍の34個のATPが作られる。 ここで酸素が必要になる。
まだややこしいから簡単にまとめると、
①は無酸素でブドウ糖をピルビン酸にするとATPが2個できる。
②はクエン酸回路を回して、水から水素を取り出す。同時にATPが2個できる。
③はその水素を酸素と結びつけて水に戻す時に、ATPが34個できる。
まー、うまいことできてるもんだ。 ロータリーエンジンみたい。
これらは、細胞の中のミトコンドリアの中で動いている仕組みで、
普通に息を吸ったり吐いたりする時でも、クエン酸回路は働いている。
逆に、酸素がないとATPがたくさん作れないから、呼吸する必要がある。
ジョギングやエアロビなんかは、①→②→③の有酸素運動で、
糖質や脂肪を燃焼し、運動エネルギーのもととなるATPを生成し続けるので、
長時間運動することができる。 ただし、急に激しく動くと①のみになる。
①の無酸素運動は酸素を使わないのでATP生成量が少なく、
運動時間は全力だと30秒程度が限界だと言われている。
注意としては無酸素運動は息を止めているという意味ではない。
息もするし、酸素も吸ってるけど、激しい運動をする場合は
酸素摂取量よりも、酸素消費量の方が上回るので、
細胞が酸欠状態になると考えられる。
だから、酸素を使わない①の方法でATPを作るってこと。
で、その方法だと、ピルビン酸が乳酸になってしまうのだ。

さあ、この乳酸が問題なわけだ。
スポーツをやる人が、練習によって心肺機能を高めるのは、
酸素摂取量の最大値を増やすことで無酸素運動状態になるのを抑え、
乳酸ができにくい体にしているというわけだ。
なぜなら乳酸は疲労物質。 体内に蓄積されれば運動能力が低下する。
だから、この乳酸ができにくくなれば運動時の疲労を軽減できるはず。
そう考えて、「903」にはクエン酸が入っているというわけ。
つまり、最初からクエン酸を飲んで取り入れておけば、
酸素が足りなくてもクエン酸回路が働いて、乳酸を作る①を
抑えることにつながるんじゃないか、という発想だ。
実際、クエン酸はサプリメントの成分でも多用されているが、
効果のほどは実はわからない。
それはなぜかというと…
乳酸は疲労物質。
乳酸が筋肉に蓄積された状態が筋肉痛。
長い間そう言われてきた。
んが、
実は、筋肉痛の原因どころか、乳酸は疲労物質ではない
というのが最近の見解らしい。
乳酸ではなく、乳酸カルシウムが疲労の原因だと言われている。
(乳酸と乳酸カルシウムは全くの別物)
となると、今まで乳酸を目の敵にしてきたのは…??
あれ? 「対乳酸」をコンセプトとした「903」の立場は…??
キリンの広報は、こう続けている。
「味覚は爽やかな柑橘系の味をベースに、クエン酸の特徴的な酸味により、
キレが良く、ゴクゴクとおいしく飲める、スポーツ時に最適な味覚に仕上げています。
また、新たな試みとして、キリンビバレッジ、アディダス ジャパン、
早稲田大学トップパフォーマンス研究所が協力し、学生アスリートを対象に
フィールド調査(グランドでの練習中や家庭内飲用など現実に即した飲用調査)を実施。
止渇性、効果実感などを現実に即した形で検証し、商品の完成度を高めています。」
すごい気合いの入りようだ。
だが、実際に飲んでみても、既存のスポーツドリンクと大差ない。
確かに酸味があるといえばあるよーな気もしたが、
残念ながら、気合いに見合うだけの明確な違いを感じられない。
「広告は、TV、屋外ボード、車内広告、雑誌など、発売と同時に多様な展開を行い、
ブランド認知を一気に獲得します。
さらに、サッカー日本代表オフィシャルドリンクとして代表をサポートするのを始め、
JFA主催のスポーツイベントへの商品協賛など、スポーツシーンでの露出をはかり、
本格スポーツドリンクとしてのポジションを確立します。 」
「903」が雑誌で話題になったのは、パッケージデザインだけでなく、
恐らくキリンが社運を懸けたプロジェクトだったからではなかろうか。
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ブランド認知を獲得するどころか、数年を経ずして絶版となった。
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消費者が他の商品と明確な味や機能の違いを実感できず、
陳列ケースから姿を消すことになった。
そもそも、クエン酸はレモンなどの柑橘類から摂取できるし、
日本の食卓に必ずある梅干しにも多量に含まれている。
それをドリンクにしていくら効果を訴えても、クエン酸の存在すら
知らないであろう一般消費者の心には、あまり届かなかったようだ。
しかし、「アミノ酸が入ってます」を売りにしたものばかりが繁殖していた
時代において、乳酸に着目したサントリーの精神は賞賛に値する。
そして、この奇抜なデザインもまた賞賛に値する。
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